春の柔らかな日差しが差し込むようになると、ガレージで静かに眠っていた愛車を外へと連れ出したくなるものです。しかし、数ヶ月もの間動かしていなかったヴィンテージ車にとって、いきなりキーを回してエンジンを始動させる行為は、心臓に大きな負担をかけることになりかねません。愛車と長く付き合うためには、眠りから目覚めさせるための儀式とも言える正しい手順を踏むことが不可欠です。今回は、久しぶりに愛車を動かす際に行いたい事前チェックと、エンジン始動時のコツについて詳しく解説していきます。
まずは愛車の健康状態を目と鼻で確認する
冬眠明けの作業で最初に行うべきは、ボンネットを開けて隅々まで観察することです。まずはエンジンルーム内に異変がないかを確認しましょう。長い間放置されていると、ゴムホース類に新たな亀裂が入っていたり、予期せぬ場所からオイルが滲み出ていたりすることがあります。また、旧車において特に注意したいのが燃料の劣化です。ガソリンタンクやキャブレター内に残った燃料は、時間が経過すると酸化して特有の不快な臭いを放つようになります。もしガソリンから腐敗したような異臭がする場合は、そのまま始動させずに燃料を入れ替える判断も必要です。
次に、各油脂類の量を確認します。エンジンオイルはもちろんのこと、ブレーキフルードや冷却水の量も必ずチェックしてください。地面に液体が漏れた跡がないか、車体の下を覗き込むことも忘れてはいけません。ヴィンテージ車は密閉性が現行車ほど高くないため、静止していても少しずつ状態が変化します。こうした細かな変化を見逃さないことが、大きなトラブルを未然に防ぐ第一歩となります。また、タイヤの空気圧も大幅に下がっている可能性が高いため、本格的に走り出す前に適切な数値まで調整しておくことが大切です。
エンジンをかける前の大切な儀式と油圧の確保
外観や液類のチェックが終わったら、いよいよエンジン始動の準備に入ります。ここでいきなりセルモーターを回して完爆させるのは避けたいところです。長期間停止していたエンジン内部は、本来あるべきオイルの膜が落ちてしまい、金属同士が直接触れ合いやすい状態になっています。まずはバッテリーの電圧が十分であることを確認してください。もし弱っているようであれば、無理に回さず充電器で満充電にするか、新しいものに交換してから作業に臨みましょう。
準備が整ったら、点火系や燃料ポンプのヒューズを抜く、あるいはプラグコードを外すなどして、エンジンがかからない状態を作ります。その状態でセルモーターを数回に分けて短時間ずつ回し、クランキングを行いましょう。これによってエンジン内部にオイルを循環させ、各部に潤滑油を行き渡らせることができます。メーターに油圧計がついている車両であれば、針がわずかに動くのを確認できるまで続けるのが理想的です。このひと手間を加えるだけで、エンジン内部の摩耗を劇的に抑えることができ、ヴィンテージカーの心臓部を守ることにつながります。
始動後の暖機運転と走行開始時の注意点
無事にエンジンが始動したら、すぐに走り出したい気持ちを抑えて、しばらくはアイドリング状態で様子を見守ります。耳を澄ませて、普段とは違う異音や振動が出ていないかを確認してください。ベルトの鳴きやタペット音など、暖まるにつれて消えるものもありますが、いつまでも続く場合は何らかの不具合が生じているサインです。また、水温計や油圧計の動きもしっかりと監視し、針が安定するのを待ちましょう。この間にガレージから出て、排気ガスの色に異常がないか、再び燃料やオイルの漏れが発生していないかを確認できるとより安心です。
走り出しの数キロメートルは、車全体のリハビリテーションだと考えてください。エンジンだけでなく、ミッションやデフ、ブレーキ、サスペンションといったすべての可動部が久しぶりに動くことになります。最初は低い速度でゆっくりと走行し、ブレーキの効き具合やステアリングの手応えを確認しながら、徐々にペースを上げていきましょう。特にブレーキは、長期保管中にピストンが固着しているケースもあるため、広い場所で何度か軽く踏んで動作を確認してください。こうして慎重に各部の動作を確かめながら距離を伸ばしていくことで、愛車も本来の調子を取り戻し、安全で楽しいヴィンテージカーライフを再開させることができるのです。